ITコンサルタントへの転職を考えているものの、実際にどのような仕事を担当することになるのか、具体的なイメージが湧かないという声をよく耳にする。
確かに、ITコンサルタントという職種は一般的な認知度が高い一方で、実際の業務内容については不透明な部分が多い。
インターネットで情報を集めようとしても、「戦略立案」「業務改革」「システム導入」といった抽象的なキーワードばかりが並び、具体的な仕事内容までは見えてこない。
そこで今回は、ITコンサルタントが提供するサービスを3つの類型に整理し、それぞれの特徴や求められるスキル、キャリアパスについて詳しく解説していく。
ITコンサルのサービスを3つに分類してみた
ITコンサルティングサービスは、提供する価値や必要とされる専門性の観点から見ると、大きく3つのカテゴリーに分類することができる。
- IT戦略コンサルティング:
経営戦略とITの整合性を図り、中長期的なIT投資の方向性を示す - IT導入コンサルティング:
具体的なITソリューションの選定と導入を支援する - IT業務改革コンサルティング:
ITを活用した業務プロセスの改善を推進する
それぞれのカテゴリーについて、詳しく見ていこう。
IT戦略コンサルティング
IT戦略コンサルティングは、クライアント企業の経営戦略を実現するためのIT戦略の立案を支援するサービスである。具体的には、現状のIT環境の課題分析から始まり、あるべき姿の設計、実現に向けたロードマップの策定までを担う。
このカテゴリーの最大の特徴は、経営層との直接的な対話を通じて、企業全体のIT戦略の方向性を定めることにある。そのため、IT技術の知識だけでなく、経営戦略や財務、組織改革などの幅広い知識が求められる。
IT戦略コンサルタントに求められる具体的なスキルとして、以下が挙げられる。
- ビジネス戦略の理解力と分析力
- IT技術トレンドの深い理解
- 財務分析のスキル
- プレゼンテーション能力
- 経営層とのコミュニケーション能力
また、IT戦略コンサルティングでは、以下のような具体的な成果物の作成を担当することが多い。
- 中長期IT戦略計画書
- IT投資計画書
- システム構成図(To-Be)
- ロードマップ
- 投資対効果分析書
このカテゴリーのコンサルタントは、クライアント企業の将来を左右する重要な意思決定に関与することになるため、高度な判断力と責任感が求められる。
IT導入コンサルティング
IT導入コンサルティングは、クライアント企業の課題解決に適したITソリューションの選定から導入までを支援するサービスである。具体的なシステムやパッケージの導入を通じて、業務効率化やデジタル化を実現することを目指す。
このカテゴリーでは、クライアント企業の業務部門や情報システム部門と密接に連携しながら、要件定義からベンダー選定、導入プロジェクトの管理までを一貫して支援する。特定の業務領域やITソリューションに関する専門知識が重要となる。
IT導入コンサルタントには、以下のようなスキルが求められる。
- ITソリューションの技術的な理解
- プロジェクトマネジメント能力
- 要件定義・設計スキル
- ベンダーマネジメント能力
- チェンジマネジメントスキル
主な支援内容としては、以下のようなものがある。
- 現状業務分析
- 要件定義支援
- ベンダー選定支援
- 導入計画策定
- プロジェクト管理支援
このカテゴリーのコンサルタントは、理論と実践の両面で高い専門性を発揮することが求められる。また、複数のステークホルダーの利害を調整しながらプロジェクトを前に進める調整力も重要となる。
IT業務改革コンサルティング
IT業務改革コンサルティングは、ITを活用した業務プロセスの改善を通じて、クライアント企業の生産性向上やコスト削減を実現するサービスである。既存の業務プロセスを分析し、ITを活用した新しい業務の在り方を設計・実現する。
このカテゴリーの特徴は、業務プロセスとITの両面から改革を推進する点にある。そのため、特定の業務領域(経理、人事、購買など)に関する深い知識と、それらの業務を支えるITソリューションについての理解が必要となる。
IT業務改革コンサルタントに求められる代表的なスキルとして、以下が挙げられる。
- 業務分析・設計スキル
- プロセスマッピング能力
- データ分析スキル
- ファシリテーション能力
- 改善提案力
主な支援内容は以下の通りである。
- 現状業務分析
- 業務課題の抽出
- To-Be業務プロセス設計
- 業務改善計画策定
- 改善効果測定
このカテゴリーのコンサルタントには、現場レベルでの改善活動を推進する実行力と、全社的な改革を実現するための構想力の両方が求められる。
3つの分類だけでは不十分ではないか
ITコンサルティングサービスを3つに分類する考え方に対して、「実務はもっと複雑で、そんな単純な分類では捉えきれない」という指摘があるかもしれない。確かに、現場では複数の要素が絡み合い、明確な線引きが難しいケースも多い。
特に、以下のような状況では、単純な分類が通用しないことがある。
- スタートアップ企業への支援:
戦略、導入、業務改革のすべてを同時並行で進める必要がある - グローバル展開:
国や地域によって求められるアプローチが異なる - 新技術の導入:
確立された方法論が存在せず、試行錯誤が必要となる - アジャイル開発:
戦略と実装が密接に結びつき、明確な区分けができない
また、デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈では、ビジネスモデルの抜本的な変革とITの活用が一体となって進むため、従来の分類枠組みでは十分に説明できない事例も増えている。
しかし、これは3つの分類の有効性を否定するものではない。むしろ、基本となる3つの類型をしっかりと理解することで、複雑な現実に対してより柔軟に対応できるようになる。
例えば、IT戦略とIT導入の要素を組み合わせる際も、それぞれの特徴や求められるスキルを理解していれば、より効果的なアプローチを設計できる。
結局のところ、分類の目的は現実を単純化することではなく、複雑な現実を理解するための視点を提供することにある。
3つの分類を起点として、クライアントの状況や課題に応じて柔軟にカスタマイズしていく。そのような実践的な思考こそが、ITコンサルタントには求められているのである。
明確な軸を持って、キャリアを築いていこう
ITコンサルタントを目指す人にとって、この3つの分類は自身のキャリアを考える上での重要な指針となる。
戦略立案に重きを置くのか、システム導入の実務を極めるのか、それとも業務改革のスペシャリストを目指すのか。最初から完璧な答えを出す必要はないが、ある程度の方向性を持っておくことで、より効果的にスキルを習得できる。
具体的には、志向するキャリアごとに次のように自身のリソースを振り分けることが考えられる。
- IT戦略コンサルタントを目指すなら、特定の業界の動向やビジネスモデルの研究に時間を投資する
- IT導入コンサルタントを目指すなら、代表的なソリューションの資格取得や実装経験の蓄積に注力する
- 業務改革コンサルタントを目指すなら、具体的な業務領域での実務経験を積む
ただし、これは決して狭い専門性に閉じこもることを意味しない。むしろ、自分の軸となる領域を持ちながら、他の領域にも目を向け続けることで、より価値の高いコンサルタントへと成長できる。
技術の進化とビジネスの変革が加速する今だからこそ、確かな軸を持ちつつ、柔軟な視野を保ち続けることが大切なのである。