世界的な感染症の流行を経て、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が企業を飲み込んでいる。その中で、ITコンサルタントの需要は増える一方だが、この状況がいつまで続くのか不安を感じている人も多いだろう。
特に、これからITコンサル業界への転職を考えている人にとって、この業界が今後も安定して成長し続けるのか、それとも一時的なブームで終わってしまうのか、見極めることは容易ではない。
AIの進化によってコンサルタントの仕事が奪われてしまうのではないか、という懸念を抱いている人もいるはずだ。
そこで今回は、ITコンサル業界の10年後の姿について、現在の動向や技術トレンドを踏まえながら予測してみたい。
ITコンサル業界の10年後の姿
ITコンサル業界の未来を理解するためには、現在進行中の変化とそれがもたらす影響を整理する必要がある。以下に、10年後のITコンサル業界の姿を3つのポイントにまとめる。
- より高度な戦略コンサルティングへのシフト
- 業界特化型コンサルティングの台頭
- グローバル対応力の必要性の高まり
これらの変化は、すでに始まっているものだが、今後10年でさらに加速していくと考えられる。以下、それぞれの要素について詳しく見ていこう。
より高度な戦略コンサルティングへのシフト
AIや自動化ツールの発展により、システム開発やインフラ構築といった従来型のIT支援業務は、徐々にコモディティ化していくことが予想される。そのため、ITコンサルタントには、より高度な戦略的思考力が求められるようになる。
具体的には、クライアント企業のビジネスモデル変革や、新規事業創出のサポートといった、より本質的な経営課題の解決に関与することが増えていくだろう。テクノロジーの知識は前提としつつ、それを経営戦略にどう活かすかという視点が重要になる。
また、デジタル技術を活用した業務改革(デジタルトランスフォーメーション)の支援も、より高度化・複雑化していく。単なるシステム導入ではなく、組織文化の変革まで含めた包括的な支援が求められるようになる。
さらに、データアナリティクスやAIを活用した意思決定支援も、重要な領域となっていく。膨大なデータから経営にとって有意義な示唆を導き出し、具体的なアクションプランを提案できる能力が必要とされる。
このような変化に対応するため、ITコンサルタントには継続的な学習と能力開発が求められることになる。技術知識のアップデートはもちろん、経営戦略や組織変革に関する知見も必要不可欠となるだろう。
業界特化型コンサルティングの台頭
デジタル化の進展により、各業界特有の課題や規制に対応したソリューションの必要性が高まっている。そのため、特定の業界に特化したITコンサルティングの需要が増大することが予想される。
製造業であれば、IoTやデジタルツインを活用したスマートファクトリー化の支援、金融業であればフィンテックやレグテックへの対応支援など、業界固有のニーズに応えられる専門性が求められる。
また、業界特有の規制や慣習を理解した上で、最適なデジタルソリューションを提案できることが、競争優位性になっていく。例えば、医療分野では個人情報保護やセキュリティに関する厳格な規制があり、それらを熟知した上でのシステム設計が必要となる。
さらに、業界内のエコシステムを理解し、複数の企業を結びつけるプラットフォーム型のソリューションを提案できる能力も重要になってくる。業界全体のデジタル化を推進する役割を担うことも期待される。
このように、ITコンサルタントには、テクノロジーの知識に加えて、特定業界に関する深い理解と経験が必要となっていくだろう。
グローバル対応力の必要性の高まり
デジタル化の進展により、企業のグローバル展開がさらに加速する。それに伴い、ITコンサルタントにもグローバルな視点とスキルが求められるようになる。
具体的には、以下のような能力が必要となる。
- グローバルでのプロジェクトマネジメント能力
- 海外の最新テクノロジートレンドへの理解
- 異文化コミュニケーション能力
- 各国の法規制やコンプライアンスへの理解
- 英語を中心とした語学力
また、海外拠点とのシステム統合や、グローバルでのデータ活用基盤の構築など、国際的なプロジェクトが増加することも予想される。そのため、地域ごとの事情を理解しながら、全体最適なソリューションを提案できる能力が重要になる。
さらに、海外のIT企業やスタートアップとの協業も増えていくだろう。グローバルな企業間連携をコーディネートできる能力も、差別化要因となっていく。
[前略、「グローバル対応力の必要性の高まり」セクションまで同じ]
現状維持では生き残れない時代に
「今のスキルセットを維持していれば大丈夫」「若手の間は実務経験を積むことだけ考えていれば良い」。こうした考えを持っているITコンサルタントは少なくないだろう。実際、筆者の周りにもそのように考えている人がいる。
確かに、現在のITコンサル業界は人材不足で売り手市場だ。多少のスキル不足があっても、なんとかなってしまう環境が続いている。そのため、危機感を持ちにくい状況にあるのも事実である。
しかし、この「ぬるま湯」的な状況は、近い将来、大きく変わることが予想される。その理由として、以下の3つが挙げられる。
- ローコード・ノーコードツールの普及による参入障壁の低下
- オフショア開発の高度化による価格競争の激化
- AIによる定型的なコンサルティング業務の自動化
また、クライアント企業のデジタルリテラシー向上に伴い、「とりあえずIT投資」的なプロジェクトは減少していく。より本質的な価値創出が求められる時代になるのだ。
このような変化に対応するには、従来型のスキルセットでは不十分だ。では、どのような準備をすべきなのか。それは以下の3つのアプローチに集約される。
- 技術的専門性と業界知識の掛け合わせによる独自の価値創出
- グローバル市場で通用するコミュニケーション能力の獲得
- 経営戦略の視点を持ったデジタル変革の推進力
ただし、これらすべてを一朝一夕に習得することは難しい。重要なのは、自分の強みを見極めた上で、計画的にスキルアップを図ることである。
まずは、今の自分に足りないものは何か、どの分野で差別化を図れるのか、しっかりと見極めることから始めよう。その上で、3年後、5年後、10年後の自分の姿を具体的にイメージし、そこに向けたロードマップを描くことが推奨される。
10年後を見据えた準備が、今を変える
ITコンサル業界の10年後を予測すると、確かに大きな変化が待ち受けている。しかし、その変化は、準備を始める私たちにとって、むしろ大きなチャンスとなるはずだ。
なぜなら、変化の本質を理解し、それに向けた準備を進めることで、より創造的で価値の高い仕事にシフトできるからである。AIや自動化によって定型業務が減ることは、むしろ私たちの仕事をより魅力的なものに変えていく可能性を秘めている。
今から準備を始めることで、10年後には「ただのITコンサルタント」ではなく、「デジタル時代の経営を導くビジネスアドバイザー」として活躍することができるだろう。その時、今日からの準備が、かけがえのない財産となって自分を支えてくれるはずだ。
変化を恐れず、むしろそれを歓迎する姿勢を持とう。そして、目の前の仕事に真摯に向き合いながら、着実に自己成長を図っていこう。それこそが、10年後の自分に必ず報いてくれる選択となるのだから。