ITコンサルタントへの転職を考えている方の中には、「プログラミングやITの知識は必要だと理解しているが、会計の知識まで必要なのだろうか」と悩んでいる人も多いのではないだろうか。
確かに、一般的なITエンジニアであれば、会計知識がなくても業務を遂行することは可能である。しかし、ITコンサルタントとして顧客の経営課題を解決していくためには、企業における会計の仕組みを理解していることが非常に有利に働く。
今回は、ITコンサルタントを目指す方に向けて、日商簿記検定の合格が推奨される理由について詳しく解説していく。
ITコンサルになるなら日商簿記検定に合格しておくべき理由
ITコンサルタントとして活躍するためには、技術的なスキルだけでなく、ビジネスの基礎となる会計知識も求められる。以下に、日商簿記検定の合格が推奨される3つの理由を挙げる。
- 顧客企業の経営課題を正確に理解し、適切なソリューションを提案できるようになる
- システム導入による業務改善効果を、定量的に説明できるようになる
- 財務会計・管理会計の知識を活かしたITコンサルティングの幅が広がる
それでは、これらの理由について詳しく見ていこう。
経営課題の正確な理解とソリューション提案力の向上
顧客企業が抱える経営課題の多くは、最終的に数字で表される。売上高の伸び悩み、利益率の低下、在庫回転率の悪化など、これらはすべて会計上の指標として現れる。
簿記の知識があれば、財務諸表から企業の現状を読み取り、どの部分に問題があるのかを的確に把握することができる。これは、ITシステムによる解決策を提案する際の重要な基礎となる。
また、企業の業務プロセスは、必ず何らかの形で会計処理と結びついている。販売管理、在庫管理、購買管理など、これらの業務システムを提案する際には、会計上の処理がどのように行われているかを理解している必要がある。
簿記検定の学習を通じて得られる知識は、顧客の業務フローを理解する際の強力な武器となる。特に2級レベルになると、原価計算や管理会計の基礎も学ぶことができ、製造業向けのコンサルティングにも対応できるようになる。
経営者や経理部門の担当者と円滑なコミュニケーションを図るためにも、会計用語の理解は欠かせない。簿記の知識があれば、顧客の言葉を正確に理解し、適切な提案につなげることができる。
システム導入効果の定量的な説明力
ITシステムの導入を提案する際には、その効果を具体的な数字で示すことが求められる。簿記の知識は、定量的な説明力を高めるために大きな役割を果たす。
例えば、新しい在庫管理システムを導入することで、どの程度の在庫削減効果が見込めるのか。その結果、運転資金がどれだけ改善されるのか。このような分析と説明には、会計的な思考が不可欠である。
また、システム投資の費用対効果を説明する際にも、簿記の知識が役立つ。初期投資額、運用コスト、期待収益などを、会計的な観点から整理して提示することができる。
投資判断に必要なROI(投資収益率)やB/S(貸借対照表)への影響なども、簿記の知識があれば説得力のある形で説明することができる。これは、経営層への提案時に特に重要となる。
さらに、システム導入後の効果測定においても、会計知識は必須となる。導入前後での各種指標の変化を適切に測定し、投資効果を検証することができる。
財務・管理会計の知識を活かした提案領域の拡大
簿記検定、特に2級レベルの知識があると、財務会計システムや管理会計システムに関するコンサルティングにも携わることができるようになる。
基幹系システムの中でも、財務会計システムは最も重要なコンポーネントの一つである。仕訳の自動化や決算処理の効率化など、経理部門の業務改善提案を行う際には、実務的な会計知識が必要不可欠となる。
以下のような領域でも、簿記の知識を活かした提案が可能となる。
- 予算管理システムの構築
- 原価計算システムの導入
- 管理会計レポーティングの整備
- 経営ダッシュボードの設計
- 連結会計システムの導入支援
とりわけ、ERPパッケージの導入コンサルティングでは、会計モジュールの設定や運用に関する知識が強く求められる。簿記検定で学ぶ内容は、その基礎として大いに役立つ。
また、昨今注目されているデータアナリティクスの分野でも、会計知識は重要な武器となる。財務データの分析や予測モデルの構築には、会計の基礎的な理解が欠かせない。
簿記の学習は本当に必要なのか?別の資格を優先すべきでは?
「ITコンサルタントなのだから、まずはIT関連の資格を優先すべきではないか」という考え方もあるだろう。PMPやITILファンデーションなど、ITコンサルタントに関連する資格は数多く存在する。
また、「実務で必要になった時に学べばよいのではないか」という意見もあるかもしれない。確かに、すべての知識を事前に習得しておくことは現実的ではない。
しかし、簿記は企業活動の「共通言語」とも言える存在である。どのような業種・業態の企業であっても、会計という視点は必ず存在する。そのため、早い段階で習得しておくことで、より広い視野でのコンサルティングが可能となる。
さらに、簿記検定の学習は比較的短期間で効率的に進めることができる。3級であれば2〜3ヶ月程度、2級でも半年程度の学習期間で合格することが可能である。投資対効果の観点からも、十分に価値のある資格と言える。
また、簿記の知識は、他の業務知識やITスキルを学ぶ際の基礎となることも多い。例えば、ERPパッケージの機能を理解する際や、業務プロセスの改善を検討する際にも、会計の基礎知識があることで、より深い理解が可能となる。
まとめ:早期の簿記検定取得がITコンサルタントとしての価値を高める
ITコンサルタントとして成功するためには、技術力とビジネス知識の両方が求められる。その中でも簿記の知識は、顧客の経営課題を理解し、適切なソリューションを提案するための重要な基礎となる。
特に、システム導入による効果を定量的に説明する力や、財務・管理会計システムに関する提案力は、簿記検定の学習を通じて大きく向上させることができる。これらのスキルは、ITコンサルタントとしての市場価値を確実に高めることにつながる。
まずは3級からスタートし、余力があれば2級の取得も視野に入れることをお勧めする。早い段階で簿記の基礎を身につけることで、より効果的なITコンサルティングが可能となるだろう。