「図書館司書はやめとけ」と言われる最大の理由3つ

本が大好きで図書館司書を目指しているあなたは、周囲から「やめとけ」という声を聞いて不安を感じているかもしれません。実は国家資格を持つ専門職でありながら、図書館司書という仕事には深刻な構造的問題が存在しています。

そこで今回は、図書館司書の厳しい現実と「やめとけ」と言われる背景について、待遇面・雇用面・キャリア面の3つの観点から詳しく解説します。ただ問題点を並べるだけでなく、なぜこのような状況になったのか、そしてこれからどう向き合うべきかについても考察していきます。

理由1:専門職なのに収入が一般事務職以下という矛盾

  • 非正規なら手取り10万円台という厳しい現実
  • 国家資格の価値が給与に反映されない理由
  • 生活設計が立てられない収入レベルの実態

非正規なら手取り10万円台という厳しい現実

図書館司書の収入実態は、専門職として働く人々にとってあまりにも残酷な数字が並んでいます。非正規雇用の場合、時給1000円から1300円程度で働くことが一般的で、フルタイムでも月収は13万から17万円程度にとどまります。

さらに衝撃的なのは、実際に働いている司書の中には手取りで9万8000円という最低賃金プラス40円で働いている人もいるという事実です。これは一人暮らしすら困難な水準であり、実家暮らしでなければ生活が成り立たないという深刻な問題を生み出しています。

正規職員として採用されれば平均年収は約640万円となりますが、この恵まれた立場にある司書は全体のごく一部に過ぎません。つまり、同じ専門職として働きながら、雇用形態によって年収に2倍以上の格差が生じているのが現実なのです。

国家資格の価値が給与に反映されない理由

図書館司書になるためには、大学で専門科目を履修するか、司書講習を受講して国家資格を取得する必要があります。しかし、この資格取得に投じた時間と費用に見合うリターンが得られないのが、この職業の最大の矛盾点です。

背景には2003年から導入された指定管理者制度があり、公立図書館の運営が民間企業やNPO法人に委託されるようになったことで、人件費削減が進められました。結果として、専門的な知識とスキルを持つ司書であっても、コスト削減の対象となり、その専門性に見合った評価を受けることができなくなったのです。

さらに問題なのは、司書の仕事の価値が数値化しにくいという点にあります。貸出冊数や来館者数では測れない、レファレンスサービスや選書の質、利用者との対話といった司書の本質的な仕事が、経営者や行政側に理解されにくいという構造的な問題が存在しています。

生活設計が立てられない収入レベルの実態

月収15万円前後という収入では、結婚や出産、住宅購入といった人生の大きなイベントを計画することは極めて困難です。実際、多くの非正規司書は副業を持つか、配偶者の収入に頼らざるを得ない状況に置かれています。

特に深刻なのは、非正規雇用の場合、ボーナスや退職金がほとんど期待できないという点です。年収ベースで見ると正規職員との差は200万円以上開くこともあり、生涯賃金の差は1億円を超える可能性もあります。

このような経済的困窮は、司書という仕事への情熱だけでは補えない現実問題となっています。「やりがい搾取」という言葉が図書館業界で頻繁に使われるようになったのも、専門性と待遇のギャップがあまりにも大きいからなのです。

理由2:非正規雇用が6割以上という不安定な雇用環境

  • 会計年度任用職員制度がもたらした新たな不安
  • 正規採用は倍率数十倍の超難関
  • 専門職なのに雇用が保障されない矛盾

会計年度任用職員制度がもたらした新たな不安

2020年4月から導入された会計年度任用職員制度により、非正規の図書館司書の多くが1年更新の不安定な立場に置かれることになりました。この制度は処遇改善を目的としていましたが、実際には毎年の契約更新に怯えながら働く状況を生み出しています。

最も問題なのは、多くの自治体で更新回数に上限が設けられており、長くても5年程度で雇い止めになるケースが多いという点です。つまり、どんなに優秀で経験豊富な司書であっても、制度的に長期雇用が保障されない仕組みになっているのです。

さらに、この不安定な雇用形態は、司書のモチベーション低下と人材流出を加速させています。せっかく培った専門知識や利用者との信頼関係も、雇用期限とともに失われてしまうという、図書館サービスの質の低下にもつながる深刻な問題となっています。

正規採用は倍率数十倍の超難関

正規職員としての図書館司書採用試験は、一般的に10倍から30倍、地域によっては100倍を超える競争倍率となっています。国立国会図書館に至っては、毎年900人以上の応募者に対して採用はわずか7人程度という、まさに超難関と言える狭き門です。

しかも、多くの自治体では司書の専門職採用ではなく、一般行政職として採用された後に図書館に配属されるケースが主流です。これは、司書資格を持っていても必ずしも図書館で働けるとは限らないという、専門職としてのキャリア形成を困難にする要因となっています。

加えて、採用試験には多くの場合35歳前後という年齢制限が設けられており、非正規で経験を積んでいる間に受験資格を失ってしまう人も少なくありません。このような採用システムは、実務経験豊富な人材が正規職員になる道を事実上閉ざしているのです。

専門職なのに雇用が保障されない矛盾

医師や弁護士といった他の国家資格職と比較すると、図書館司書の雇用保障の脆弱さは際立っています。専門的な教育を受け、資格を取得したにもかかわらず、その専門性が雇用の安定につながらないという矛盾が存在しているのです。

この背景には、日本の公務員制度が専門職よりもゼネラリストを重視する傾向があることが挙げられます。異動を繰り返しながら昇進していく正規職員と、専門性は高いが非正規として扱われる司書という二重構造が、図書館の現場で起きています。

皮肉なことに、実際の図書館運営において中心的な役割を果たしているのは非正規の司書たちであることが多いのです。しかし、重要な意思決定の場からは排除され、専門知識が十分に活かされないという、組織としての非効率性も生まれています。

理由3:キャリアアップの道筋が見えない閉塞感

  • 非正規経験がキャリアとして認められない現実
  • 年齢制限という越えられない壁
  • 専門性を活かした転職も困難

非正規経験がキャリアとして認められない現実

非正規として10年、20年と図書館で働いても、その経験が正規採用の際にキャリアとして正当に評価されることはほとんどありません。むしろ「なぜこれまで正規になれなかったのか」という負の評価につながることすらあるという、理不尽な状況が存在しています。

実際の業務では、非正規司書が正規職員以上に専門的な仕事を担当していることも珍しくありません。しかし、履歴書上では「パート」「アルバイト」という肩書きでしか評価されず、積み上げてきた専門性が無価値化されてしまうのです。

この問題は、司書個人のキャリア形成を阻害するだけでなく、図書館業界全体の人材育成システムの欠如を示しています。優秀な人材が適切に評価されず、活躍の場を与えられないという状況は、日本の図書館サービスの発展を妨げる大きな要因となっています。

年齢制限という越えられない壁

多くの自治体の司書採用試験には、30歳から35歳という年齢制限が設けられており、これが多くの非正規司書にとって越えることのできない壁となっています。20代で非正規として働き始め、経験を積んでいる間に、気づけば受験資格を失ってしまうという悲劇が繰り返されているのです。

特に問題なのは、司書として最も脂が乗る40代、50代の経験豊富な人材が、制度的に正規雇用から排除されているという点です。利用者サービスの質を高めるには経験が不可欠であるにもかかわらず、その経験が活かされない仕組みになっています。

近年、一部の自治体では社会人経験者枠を設ける動きも見られますが、まだまだ少数派であり、根本的な解決には至っていません。年齢によって可能性が閉ざされるという現実は、司書を目指す人々の希望を奪い、優秀な人材の流出を招く結果となっています。

専門性を活かした転職も困難

図書館司書の専門性は極めて特殊であるため、他業界への転職においてその経験やスキルが評価されにくいという問題があります。レファレンス能力や選書の知識は、一般企業では直接的に活用できる場面が限られているのが現実です。

出版業界や書店への転職を考える司書も多いですが、これらの業界も決して待遇が良いとは言えず、根本的な解決にはなりません。また、図書館情報学の知識を活かせるIT系企業への転職も、実務経験の不足から難しいケースが多いのです。

結果として、多くの司書は「つぶしがきかない」という不安を抱えながら、現在の不安定な雇用に甘んじるか、全く異なる分野への転職を余儀なくされています。専門職として培ってきた知識と経験が、キャリアチェンジの際に足枷になってしまうという、皮肉な状況が生まれているのです。

図書館司書という仕事の現実についてのまとめ

図書館司書は確かに本と人をつなぐ素晴らしい仕事ですが、その理想と現実のギャップはあまりにも大きいものがあります。専門職としての誇りを持って働くには、経済的にも精神的にも厳しい環境に置かれているのが実情です。

この記事の要点を復習しましょう。

  1. 非正規雇用なら月収15万円前後、手取り10万円台という生活困難な収入レベル
  2. 全体の6割以上が非正規雇用で、毎年の更新に怯える不安定な雇用環境
  3. 正規採用は倍率数十倍の超難関で、年齢制限により可能性が閉ざされる
  4. 非正規での経験がキャリアとして評価されない理不尽な評価システム
  5. 専門性が他業界で活かしにくく、転職も困難な閉塞的状況
  6. 指定管理者制度の導入により、さらに雇用の不安定化が進行

それでも図書館司書を目指すのであれば、まず正規職員を目指しつつ、同時に他のキャリアプランも準備しておくという現実的な戦略が必要でしょう。図書館司書という職業の価値が正当に評価される日が来ることを願いつつ、今はその厳しい現実と向き合わざるを得ないのです。

参考リンク

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