ドラマ「オクトー」をご覧になって、主人公が目にした「黒」という感情の色に強烈な衝撃を受けた方は少なくないでしょう。この作品では8つの基本感情が色として描かれますが、黒だけは異質な存在として登場し、視聴者に深い不安を与えました。
そこで今回は、オクトーに登場する感情の色「黒」が一体何を意味するのか、どのような心理状態を表しているのかについて、詳しく解説していきます。この記事を読めば、ドラマをより深く理解できるだけでなく、人間の心の闇について新たな視点を得られるはずです。
オクトーにおける感情の色の基本体系
- プルチックの感情の輪とは何か
- 8つの基本感情とそれぞれの色
- 複数の感情が混ざり合う仕組み
プルチックの感情の輪とは何か
ドラマ「オクトー」の根底にあるのは、アメリカの心理学者ロバート・プルチックが1980年に提唱した「感情の輪」という理論です。この理論によれば、あらゆる人間の感情は8つの基本感情から構成されており、それらが混ざり合うことで複雑な感情が生まれるとされています。
プルチックのモデルでは、基本となる感情が組み合わさることで多様な感情が誕生すると考えられています。この発想は、感情を視覚的に理解する上で画期的なアプローチとして心理学界で注目を集めています。
ドラマではこの理論を採用することで、目に見えない感情を色という形で可視化し、視聴者にも分かりやすく表現しています。主人公の心野朱梨が持つ特殊能力は、まさにこの理論を具現化したものと言えるでしょう。
8つの基本感情とそれぞれの色
プルチックの理論における8つの基本感情、すなわち「オクトー」は、喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待で構成されています。ドラマではこれらの感情がそれぞれ異なる色で表現され、登場人物の心理状態を鮮やかに映し出します。
喜びは黄色、悲しみは青色、怒りは赤色といった具合に、各感情には直感的に理解しやすい色が割り当てられています。これにより視聴者は、言葉で説明されなくても登場人物が今どのような感情を抱いているのかを一目で把握できるのです。
興味深いのは、朱梨がこれらの色を通じて相手の嘘や隠された本音を見抜く点です。人間は言葉で自分の感情を偽ることができても、心の奥底にある本当の感情までは隠しきれないという真理を、この設定は見事に表現しています。
複数の感情が混ざり合う仕組み
人間の感情は単純なものばかりではなく、複数の基本感情が同時に存在することも珍しくありません。ドラマでは、この複雑な感情の混在を、色が重なり合ったり混ざり合ったりする様子として描いています。
例えば、喜びと驚きが同時に存在すれば楽観という感情が生まれ、恐れと驚きが混ざれば畏敬の念が生じます。このように基本感情の組み合わせによって、人間は実に多様で繊細な感情を経験していることが分かります。
しかし、通常の感情の混在とは明らかに異なる、異常な状態も存在します。それこそが本記事のテーマである「黒」という感情の色であり、この色が示す心理状態は極めて深刻なものなのです。
小野寺大伍が見せた「黒」の感情の正体
- 黒の感情が初めて登場したシーン
- 様々な感情が混ざり合った結果としての黒
- 甲本祐希による感情操作の影響
黒の感情が初めて登場したシーン
シーズン1の最終章において、朱梨は15年前に両親を殺害した犯人である小野寺大伍と対峙することになります。そのとき朱梨が目にしたのは、これまで見たことのない「黒」という異様な色の感情でした。
朱梨のスケッチブックが黒で塗りつぶされていく様子は、視聴者に強烈なインパクトを与えたシーンとして記憶に残っています。この黒という色は、通常の感情の色とは明らかに異質で、何か恐ろしいことが起きていることを直感的に感じさせました。
小野寺の目から放たれる黒い感情を見た朱梨は、深い恐怖と混乱に陥ります。それもそのはず、この黒という色は人間として踏み越えてはならない一線を越えてしまった者だけが発する、特別な感情だったのです。
様々な感情が混ざり合った結果としての黒
黒という感情の色は、単一の感情では説明できない複雑な心理状態を表しています。具体的には、憎悪と歓喜、虚無といった本来なら同時に存在し得ない相反する感情が、無秩序に混ざり合った結果として生まれるとされています。
感情の色のチャートによる解釈では、黒は相反する軽蔑と喜悦が融合した状態だと考えられます。つまり「生命の価値を否定し、それを支配したり消し去ったりすることに満足を覚える」という、極めて非道徳的な心理状態を示しているのです。
驚いたときに笑ってしまったり、悲しいのに怒りを感じたりすることは、健全な感情の範囲内での混在です。しかし小野寺の黒は、理性による感情のコントロールが完全に失われた、人間性の崩壊を意味する色だと言えるでしょう。
甲本祐希による感情操作の影響
小野寺が黒い感情を発するようになった背景には、精神科医である甲本祐希の存在がありました。甲本は小野寺の恋愛感情を巧みに操作し、朱梨の父を殺害するように誘導したのです。
甲本は小野寺が朱梨の姉である紫織に好意を抱き、自分から離れていきそうになっていることに気づきます。そこで「紫織との交際を実現するには障害を取り除くしかない」とささやき、シリアルキラーの犯行に偽装するよう提案したのです。
この操作により小野寺の心は深く歪められ、様々な感情が制御不能なまま混ざり合う異常な状態に陥りました。甲本から依存と服従の感情を引き出されることで、小野寺は人間としての正常な感情の均衡を失い、黒という色を発するようになったのです。
黒が示す壮絶で異常な心理状態
- 理性による感情抑制の完全な崩壊
- 非道徳的行為に快楽を感じる異常性
- サイコパス的傾向との類似点
理性による感情抑制の完全な崩壊
人間が社会の中で生きていくためには、感情をある程度コントロールする能力が不可欠です。怒りを感じても暴力を振るわない、悲しくても仕事を続けるといった行動は、理性による感情の抑制があってこそ可能になります。
しかし黒い感情を持つ人物は、この理性による抑制機能が完全に機能しなくなっている状態にあります。感情が暴走し、通常なら絶対にしないような行動に駆り立てられてしまうのです。
この状態は一時的な感情の高ぶりとは根本的に異なります。持続的に理性が失われ、もはや自分の行動を客観的に判断することすらできなくなっているという点で、極めて深刻な精神状態だと言わざるを得ません。
非道徳的行為に快楽を感じる異常性
黒い感情の最も恐ろしい特徴は、人を傷つけたり命を奪ったりする行為に喜びを感じてしまう点です。通常の人間であれば、他者に危害を加えることには強い抵抗感や罪悪感を覚えるはずです。
ところが黒い感情を持つ人物は、この道徳的なブレーキが完全に外れてしまっています。むしろ他者を支配したり、苦しめたりすることに快楽さえ感じるという、通常では考えられない心理状態に陥っているのです。
この異常性は、単なる残虐性や冷酷さとは一線を画します。感情そのものが根本から歪んでおり、善悪の判断基準すら崩壊してしまっているという点で、人間性の完全な喪失を意味していると言えるでしょう。
サイコパス的傾向との類似点
心理学の分野では、他者への共感能力が欠如し、反社会的な行動を繰り返す人格をサイコパスと呼びます。黒い感情を持つ人物の特徴は、このサイコパス的傾向と多くの共通点を持っていることが分かります。
サイコパスは表面的には魅力的で社交的に振る舞いながら、他者を利用したり傷つけたりすることに罪悪感を感じません。小野寺も元警察官として社会に溶け込んでいましたが、内面では極めて危険な感情を抱えていたのです。
ただし黒い感情は、生まれつきのサイコパス傾向とは異なり、外部からの操作や極度のストレスによって後天的に生じた可能性があります。この点は、人間の心がいかに繊細で、同時に壊れやすいものであるかを物語っていると感じずにはいられません。
オクトーにおける黒の感情についてのまとめ
ドラマ「オクトー」で描かれる「黒」という感情の色は、人間の心が極限まで追い詰められた結果として生まれる異常な心理状態を表現しています。この色は視聴者に強烈な印象を与え、人間の心の闇の深さを改めて認識させる役割を果たしました。
この記事の要点を復習しましょう。
- 黒は複数の相反する感情が無秩序に混ざり合った結果生まれる色である
- 理性による感情の抑制が完全に崩壊した状態を示している
- 非道徳的な行為に快楽を感じる異常な心理状態を表す
- 小野寺は甲本の感情操作により黒い感情を発するようになった
- 人の命を軽蔑し奪うことに喜びを感じる心理を象徴する
- シーズン2でも別のキャラクターに黒の感情が見られ続編への伏線となった
黒という感情の色の存在は、人間の心の脆さと恐ろしさを同時に教えてくれます。誰もが適切なケアや理解を受けられる社会の重要性を、このドラマは訴えかけているのかもしれません。
